父の手術の予定時間は4時間と聞かされていました。開腹しても手の施しようがない場合は、そのまま閉じる事もあり、その場合はもっと早く終わるという事でした。
そして手術開始から1時間半後、まだ鳴らないで・・・お願いだから成功しますように・・・という想い虚しく、病院から持たされたPHSが鳴ったのです。あぁ、そうか・・・。心臓がバクバクしましたが、わたしがしっかりしなければ。
母と二人、主治医の先生の説明を受けました。病名は胃がん。それもスキルス胃がんというとても厄介なものだということ。胃壁にびっしり浸潤していて発見が困難で手術では取れないという事でした。今回の手術では、口から食べ物が食べれなくなった場合に備えて、胃ろうの処置をしたとのことでした。私はスキルス胃がんという名前だけは知っていました。おそらく難かしいものであることも。そして先生に、「どのくらい前から発症したのでしょうか?」と質問しました。先生は「おそらく2年ほど前からでしょう」と。後に母によると、前の年の夏頃から胸が気持ち悪いとそうめんくらいしか食べなかった事があると。その夏も暑かったから健康な人でも食欲が減退していたから、周りもさして気にもしなかったと。父は昭和の頑固親父らしく、医者嫌いでしたし、元々ちょっとくらい調子が悪くてもなかなか病院には行かなかったでしょうし。そして病魔は誰も知らない間に父の中に巣喰いはじめたのでしょう。そして「何年くらい生きられますか?」と聞きました。先生は「半年から一年位でしょう」とのこと。私は先生に「痛みをとってほしい。痛みは恐怖の感情になるから」「なるべく長く口から食べられるように、少しでも質の高い生活が続けられるように病気の進行を遅くするようにコントロールして欲しい」と伝えました。
その日はICUに運ばれて面会もできないので、母と二人家へ帰りました。駐車場に向かう道を腰を曲げながら歩く母が、『先生は「(手術)あかんかった」って言ったなぁ。』と呟きました。それはとても悲しい言葉でした。
私は先生に、まずは痛みを取ってくださいとお願いしました。痛みは恐怖の感情を生むからです。
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